5連敗を含む勝ち点38。2014年にJ3へ参入して以来最低の15位でシーズンを終えた。
巻き返しに向け、異例の速さで三浦の監督続投が決定する。2020シーズン、J2クラブライセンス取得を目指すフロントが例年以上の本気をみせる。
ギオンスタジアムでサポーターに挨拶する三浦
2016シーズンに相模原を率いた同氏の復帰。三浦とは高校の先輩後輩であり、師弟関係にある。
2020シーズン、三浦は全幅の信頼を寄せる薩川にチームの守備すべてを任せ、一切口出しをしなかった。
得点36/失点45だった2019シーズン。彼が就任した2020シーズンは得点43/失点35に。ほぼ数字が逆転することになる。
任せられるのは守備だけじゃない
例年、オフに多くの選手入れ替えがおきる相模原。集客面でのマイナスを指摘されながらも、勝てるチームづくりのために、必要だと信じることを行ってきた。
J2ライセンス取得を見据えていたクラブは、上位争いではなく昇格を目指すため、例年以上に本気の選手入れ替えを行う。
敗北はさらなる批判とサポーター離れを招く。失敗は許されない。
「今年はシゲに欲しい選手をほとんど獲ってもらったからね。絶対に負けられないよ。」
この時点で、昨年から在籍する12名に新たに15名の選手が加わった。
スローガンも昨年と同じ『変革』
我々はまだまだ変革の途上にあるとの三浦の思いが込められている。
誇張はない、今年も同じスローガンで戦う
新加入のブラジル人フォワードは点が取れる。育成型期限付き移籍で加入した高卒ルーキーの松田詠太郎はスピードがある。
守備は新加入のGKビクトルを中心に、左右のサイドバック、星と夛田の豊富な運動量で守れる。練習の段階で手ごたえが感じられた。
実際、上位カテゴリーチームとの練習試合で勝利し、開幕が待ち遠しい状態であった。
しかし、敵は意外な所からやってくる。
2020シーズン、チームトップの13得点を記録することになるホムロはこの日初めてチームに合流した。
もし彼が加入していなかったらと考えるとゾッとする。
タイからやってきたブラジル人FWホムロ
10ヶ月後、この男たちが大仕事をやってのける
キャンプから戻ってすぐの練習試合。J2大宮に勝利する。
なおこの試合、ユニフォームが間に合わず、昨年のユニフォームで戦った。黄色のビクトルは貴重だ。
2月は開幕に向けて積極的に練習試合を行った。
フロンターレ、Fマリノスに勝利するなど、J1チーム相手に連勝し、開幕が待ち遠しくなるような試合が続いたのだが・・・
Jリーグ各クラブと理事会の合意・承認により、3月8日と15日の2試合の開催延期が、この日、決定した。
今年こそ・・・と意気込んだシーズンがまさかこのような形で延期になるとは夢にも思っていなかった。
試合日程が定まらない中、どこにあわせてモチベーションを上げていけばよいのかわからない。この時期をどう練習するべきか、スタッフで何度も話し合った。
練習試合をしたいけどできない。いつ練習を再開してよいのかわからない。今シーズンのリーグ戦中止すら可能性があった。
サッカー以前に、そもそも生活してゆけるのか。選手もスタッフも不安であった。
昇格を決める最終戦の決勝点。あのゴールを決めたこの男は混乱の最中にやってきた。
ボランチ、センターバックをこなし、守備の中心となる。ボールを奪う能力の高さが際立った。
しかしこの時は「俺たちは強い」というより「寿司屋の梅さん」だった。
ついに緊急事態宣言がでる。仕方がないこととは言え、国民全員が不要不急の外出を控え、我慢を強いられることになった。
不安とともに過ごす日々が続く。
試合もない、ファンサービスもないこの時期に自分たちサッカー選手にできることはないか?
そう思っていたところにジャニーズからダンスで手洗いの大切さを伝える『Wash Your Hands』の話が届く。
正しい手の洗い方、大切さをサポーターへ。少しでもポジティブなメッセージを発信するべく選手たちが自宅でダンスに挑戦し、これにサポーターも反応。再生回数10,000を超える動画となった。
外出自粛要請など日本が、世界が、未曽有の事態に陥ったが、無観客ながらもJリーグ開幕が決定する。
スタッフも、選手も、開幕決定の報に安堵するが、ひと月後の開幕に向けて練習を再開し、戦える体とチームをもう一度作り直す必要があった。
しかも3カ月半以上遅れての開幕だが試合数は減らない。日程は超がつくほどの過密ぶりだ。
けれども相模原にとって悪い事ばかりではない。怪我で開幕に間に合わなかった選手が間に合う。医療体制が逼迫する中、サッカーができるだけで十分だった。
やるしかない。
出典:2020明治安田生命Jリーグ再開特集 https://www.jleague.jp/special/restart-games/
対戦成績が悪いわけではないのだが、なんとなく苦手なイメージのYS横浜。ホムロ、三島の惜しいシュートも、得点できずにスコアレスドローに終わった。
なおこの試合で松田がJリーグデビューを果たしている。
順位 9 位
ソーシャルディスタンスに配慮した集合写真
今シーズンの初ゴールは和田からのパスを受けたユーリ。2点目は松田がもらったPKをホムロが決めた。最後は松田自身のゴール。
松田はこれがJ初ゴール。戦前の期待通り、ブラジル人フォワードと松田が活躍する形となった。
順位 5 位
素晴らしい活躍のルーキー松田
J3に参入して7シーズン目となる今季。クラブ初のJ2ライセンス申請を行う。申請といっても、簡単ではない。ここに到達するまでの準備、調整、手続き。
そうしたことをすべてクリアしてのライセンス申請であった。
押し込まれる展開が続くが、徐々に自分たちの攻めの形がつくれるようになっていく。
結局、惜しいシーンはあるものの、両チームともネットを揺らすまでにはいたらない。
順位 7 位
相手の脅威となるユーリのドリブルだったが
中3日で迎えた試合。前半、沼津の攻撃をミドルシュートのみに抑え、ペナルティーエリアに侵入させない堅い守りの相模原はカウンターでしかける。沼津はボールを保持し、パスでゲームを組み立てる。
お互いの持ち味で攻撃しあうが、またもスコアレス。4試合で3回のスコアレスドロー。
ストレスが溜まる試合が続く。
順位 7 位
ゴールネットを揺らすことはできなかった
3連戦の最後のゲーム。三浦はここでフレッシュな選手を投入する。2試合ぶりのスタメン和田がその期待にゴールで応える。この後に追いつかれるものの、ホムロのゴールで勝ち越す。
和田が初キャプテンとなったこの試合、松田が2アシストと、またも光る活躍をみせた。なおこの試合で白井がJ初出場を記録した。
順位 4 位
ベンチの仲間に迎え入れられるホムロ
コロナ対策ということで距離をとって撮影する今シーズンの集合写真。そのまま撮るとスカスカして様にならない。
千葉の試合で見てきたというV字型の集合写真。オフィシャルカメラマン篠田氏の発案だ。
一時「V字で撮ると勝ってるんじゃない?」との噂があったが「そんなの関係ない!」とばかりに毎回氏の発案でいろんな並びで撮り続けた。
V字はゲン担ぎ? いや、関係なかった!
連戦が終わり、十分な休養を得て臨んだ試合。相手はここまで勝利のない盛岡。
「悪い状態の相手に負けると、こちらの調子が悪くなるから、絶対に負けるな!」とスタッフに指示していた三浦であったが、その嫌な予感が的中する。
ユーリがPKを失敗。松田のシュートがバーを叩き、決まらない。逆にまずいボールの奪われ方からカウンターで失点。
『決めるべきところで決めないとこうなる』という典型的な試合になってしまった。
ここで少しチームの歯車が狂う。
順位 8 位
狙いを澄ますユーリだったが・・・
横浜FCでプレーし、オーストラリアへ渡るが、コロナ禍で帰国。プレーするチームを探していた立花が加入する。
高い身体能力、一瞬でディフェンスの裏へ抜けるスピードが持ち味だ。
この後チャンスが巡ってくるが・・・
セットプレーが得意な秋田。対策をして臨んできたにも関わらずそのセットプレーから2失点してしまう。しかも相模原の決定機は、昨年まで相模原に在籍した秋田守護神の田中雄大にことごとく止められる。
このまま終わるかと思われた後半アディショナルに三島が1点を返す。秋田はこれが今シーズン初失点。連続無失点記録をストップしたことで、幾らか溜飲を下げられたことが唯一の救いであった。
後に「この遠征帰りのバス内が、今シーズン、チームの雰囲気底辺だった」とスタッフが語っている。
なおここまで開幕からフル出場するも、この試合で足を痛めた田村はこれが今シーズン最後の試合であり、現役最後の試合となってしまった。
順位 10 位
Jリーグが開幕できたことは幸いであったが、この暑い7月に6試合。中2日、3日の試合が続く。7試合で6得点7失点。
2月には調子のよかったチームだが、少々厳しい滑り出しとなった。なおここまでセットプレーからの得点はない。
うなだれる選手たち
立ち上がりから嫌な展開が続き、PKを献上してしまう。ところがこれをビクトルがストップ!逆に清原がもらったPKをホムロが決める。これがこの試合を決めた。
終盤には梅井が戦列復帰。盟友である鹿児島ジョン・ガブリエルとマッチアップを繰り広げ、この大型空中戦をことごとく制する。
なおこの試合で窪田が今シーズン初先発。ボールを受けて、捌く。ボールを保持して組み立てる形が色濃くなった。
しかし気になるのはこれまでフル出場を続けた松田のベンチ外。嫌な予感がしたが・・・
順位 8 位
応援禁止で始まった今シーズン。ピッチの選手、ベンチのスタッフの声がスタジアムによく響く。この試合、三浦は審判にペットボトルを投げつけ2試合のベンチ入り停止を命じられる。
本人が話す通り、これはやってはいけないことで弁解の余地はない。クラブへも、試合中の監督・スタッフのジャッジへの批判に対して、クレームが届いていた。
もちろんジャッジへの批判などない方がよい。それはわかっている。それでも三浦はおかしいと思うジャッジへの批判をやめることはしなかった。
2点目は星のクロスから 今季セットプレーからの初得点
かつての盟友、梅井とジョンのマッチアップ
ゴールも決め、アシストも決め、PKももらった。相手チームも松田への対策をしてきた。
その18才の若武者のレンタルバックが発表される。三浦自身が語った通り、松田が去ることでチームはプラン変更を余儀なくされた。
ディフェンスを置き去りにできる選手、松田
遠方の自宅から朝早く練習場へ通い、練習後もトレーニングを欠かさないストイックな大卒新人の上野。
『プロは努力なんて当たり前』
"ヴェルディ天才の系譜"として期待されながらも、怪我で苦しんできた山口貴之ユース総監督は言う。
こんなにも若く、こんなにも努力を欠かさずとも、一度のチャンスなくチームを去らねばならない。プロスポーツの厳しさを感じさせる上野の退団となった。
願わくばその努力はサッカーで報われて欲しい
連勝して波に乗りたい相模原。ここまで、負けた試合でもどうにもならない内容のゲームはなかったが、この富山戦は完敗といっていい。
前半9分までに2失点。巻き返そうにも攻撃のパワーが残っていない。
暑さのせいか、移動距離のせいか、三浦がベンチに不在のせいなのか。
いずれにせよ、内容、結果ともに今季ワーストといえる試合になってしまった。順位も今季最低の10位に沈む。
順位 10 位
古巣相手に錦を飾りたい才藤だったが
前節の悪い流れから中4日で迎えたこの試合。果たしてどうなるかと思われたが、コーナーキックからホムロ、カウンターでユーリが決め、ブラジル人フォワードコンビが結果をだす。
古巣との対決となったビクトルは、1点を失うものの、再三のシュートストップ。PKも防ぎ、新外国人3人が躍動する試合となった。
なお、この試合で夛田がシーズン初ゴールを決め、昨シーズン30試合に出場した梶山がシーズン初出場を果たした。
順位 8 位
2020シーズン、2点差以上の勝利はこの試合を含めて2試合しかない。しかも個の能力が高いプレイヤーが多いFC岐阜。2点差でも相模原に余裕はなかった。
今シーズン、相模原が余裕をもって戦えた試合、時間帯などなかったといっていい。
ゴールを決めて吠えるユーリ、野獣のように猛々しい
最終戦のアウェイ今治。1点目のゴールはこの男の超ロングフィードから生まれる。ハーフウェーライン手前からゴール前のホムロを狙っていた。
日本代表にも名を連ねて、左利き、桐光学園出身ということで、レジェンド中村俊輔と比較されてきた男が、ここまで加入するチームが決まらずに母校で練習していた。
しかしその左足は全く錆びついていなかった。
この男の左足が相模原を歓喜へ導く
J3参入以来、U-23との試合を苦手としてきた相模原。でも今年はそういうわけにはいかない。
「U-23相手に気を抜いちゃいけないし、ここは負けられない。若いのになめられるな!」と激を飛ばして選手を送り出した三浦だったが、主導権を握られる展開となる。
このまま試合終了かと思われたアディショナルのラストプレー。才藤自身「気持ちで押し込んだ」と評したボールがフワリとゴールに吸い込まれる。
ここでようやく今シーズン初の連勝。
なおこの試合でかつてセレッソ大阪で昇格を果たした清原がシーズン初ゴールを記録している。
順位 6 位
ギリギリの所で勝利をもぎ取った!
2019シーズン、梅井、ミルトンとともに小田島も怪我をする。奇しくもCBを務めた3人が同じ怪我。
3人ともおよそ1年間をリハビリに費やす辛い日々が続いたが、小田島はここで2人とは別の道へと進む決断をする。
オダジの新天地での活躍を願ってやまない
2週連続の大阪遠征。できればアウェイに留まり調整したいところだが、相模原にとってそれは難しい。
前半20分に左サイドを崩され失点。その後も点を取りに行ったところにカウンターを決められて、ジ・エンド。タラレバだが、PA内でのハンドをとってもらっていればどうなっていたかと思ってしまう。
3連勝を狙って乗り込んだ大阪連戦だったが、気分よく勝った後に『0-3』と気持ちの切れる試合。何とも波に乗り切れない展開が続く。
なおこの試合でミルトンも前十字靭帯の怪我から復帰した。梅井、小田島、ミルトン。前十字靭帯に怪我を負った3人にそれぞれの転機が訪れた。
順位 8 位
内容は悪くないのに、波に乗れない展開が続く
今年は多くのスポーツ大会が中止になった。
地元行政から「最後の大会が出来なかった中学3年生に思い出を残してあげてほしい」とのメッセージを受け、毎年恒例の、さがみはらドリームマッチを彼らに向けて開催することに。
なお開催資金はクラブ初となるクラウドファンディングでの調達に挑戦し、およそ130万円の資金の支援を得ることができた。
文字通り『サポーター』の力に支えられて開催するイベントとなった。
戦前の分析では讃岐の守備はそれほど固くない。新しい風を入れて、流れを変えたい相模原は、稲本・藤本の元日本代表コンビを同時に初スタメンで投入する。
前半、セカンドボールが拾えずに苦しい展開が続く。このまま0-0で終え、後半勝負にいくプランを立てていたところ、アディショナルに失点。これでゲームプランが崩れる。
後半も点が奪えず、このまま終わるかと思われた85分、才藤がもらったPKをホムロが決める。さらに直後の86分、センターサークル付近でボールを受けたホムロがスライディング気味のキックでスーパーロングシュート!なんとこれがGKの背後を突いてゴールに吸い込まれる!
終了直前の2分で2点を奪い、勝つ流れの相模原。ところがアディショナルに相手のクロスが星、鹿沼の又下を抜いてゴール前へ。コロコロと転がったボールがゴールに吸い込まれていく。
7分間で3点が入るという劇的な展開。最高の雰囲気から、一転、負けたかのような試合であった。
順位 8 位
スーパーロングシュートの行く末を見守るホムロ
前節から中2日で迎えたこの試合、高さのあまりない福島に対してセットプレーで点を奪いにいく相模原。和田、ホムロの得点は、ともに藤本の左足から生まれた。彼の加入からセットプレーのボールは、密集の外ではなく、中の選手に合わせることが増えた。
途中、雷で一時中断。しかし再開後も流れは相模原。鹿沼のプロ初ゴールとなる素晴らしいカウンターが決まる。
このまま3-0でクローズするはずだったが、78分にイスマイラにバックヘッド、86分にはかつて相模原に在籍した樋口に決められるなど、終わってみればヒヤヒヤの勝利。
試合後、イスマイラにマンマークでついていた梅井に三浦が激怒。またベンチにまわるかと思われたが、その後も梅井を使い続けた。
順位 6 位
ゲームをコントロールしていないのにセットプレーで勝ったり、勝つ流れなのに引き分けたり。自分たちでもうまくいっているのか、そうでないのか。この時期、自分たちの調子をどう捉えればよいのかハッキリしない状況が続いていた。
加入後2試合で早くも輝きを放つ藤本
清原のクロスから鹿沼のプロ初ゴールが決まる!
この試合まで、相手の選手名とフォーメーションを具体的に想定した練習をしてこなかった三浦。決めすぎてしまうと想定と違った場合に選手が対応できないことを嫌った。
ただこの熊本だけは違う。このカテゴリーで抜きんでた試合を展開していた。事実、この時点で首位秋田に次ぐ2位。得点はリーグ1位であった。
だがこの直近の試合で長野が熊本に勝利する。
『俺らもいける!』
そういう雰囲気がチーム内にでたのだが・・・
連戦の熊本に対し、中6日の相模原だったが、押し込まれる展開が続く。
しかし15分、藤本のコーナーから和田が決めた・・・かに思われたゴールは惜しくもオフサイドの判定。
50分には古巣相手に三島のヘッドがさく裂した・・・かに思われたが、これはバーに嫌われる。
『思った以上にやれる!』そうベンチが感じていたところ、交代で入ってきた熊本浅川に一瞬の隙をつかれ失点。終了直前にまたも浅川に決められ、息の根を止められた。終わってみれば力負けという試合であった。
順位 9 位
リスペクトして臨んだ熊本戦。連戦の相手に対して完敗といっていい内容であったが、この試合を最後に相模原はこのシーズン1つも負けない。ここから相模原が反撃に転じる。
熊本まで応援に訪れたサガミスタに頭を下げる
2020シーズン、昇格を決めた相模原だが、チーム人件費は少ない。2019シーズンベースだと55チーム中50位。J3トップ、熊本の半分以下だ。
今シーズンJ3に初参入の今治だが、よい選手を獲得している。侮ることなどできない相手。
試合は終始相模原が押し込むも、ワンチャンスを決められる。しかし85分、星からのクロスを梅井が落とし、最後は才藤のヘッド。
リスペクトして臨んだ相手に怖さを出させず、終始優勢に進められたことがこの後の自信に繋がった。
三浦は試合後「失点を減らし、攻撃の精度を上げ、あとはラッキーボーイが現れれば巻き返していける」とコメント。そしてその通りの展開になっていく。
なおこの試合、梅井が11か月ぶりの先発出場を果たした。
順位 9 位
ゴールを決め、ベンチへガッツポーズの才藤
前半戦最後のこの試合、ここまで調子の上がりきらないチームがガラッと変わったのがこのアウェイ鳥取戦。
状況を変えようと、昨年までの3バックを採用。怪我あけのミルトン、ジョーカーとして途中出場してきた才藤を先発出場させる。
星、夛田、梅鉢とセンターバックをあわせた6枚でしっかり守れる。前もホムロと才藤で点が取れる。ミルトン、梅井など、高さのある選手をセットで前に置き、コーナーキックやロングスローで相手に圧をかけ始めたのもこの試合からだ。
試合は才藤から受けたパスをホムロがシュート。GKがはじいたボールが才藤の前へ転がる。2試合連続のゴールだ。
反攻。ここから始まる。
順位 8 位
良いところがなかったアウェイでの富山戦。中4日で迎えるホームゲームの上に、前節からのよい流れもある。前回とは違うところをみせたかったが、またも富山に先制を許してしまう。
才藤のロングスローからミルトンのJ初ゴールが生まれ、追いついたのもつかの間、21分、ニアに飛び込んできた富山FW平松に勝ち越しゴールを許す。このやられ方はアウェイ富山戦の1点目と同じ形であった。
ハーフタイム、三浦は「このまま同じようにやられていいのかよ?」と奮起を促す。
75分、星のクロスを最後はホムロ。さらに79分、コーナーを蹴った星が中央に侵入。ディフェンスにあたったボールをジャンプして左足で合わせて逆転ゴールを決める。
このまま逃げ切りたい相模原。アディショナルは4分。その4分に差し掛かる頃のラストプレー。ヘディングをビクトルが飛びつき右手一本で間一髪セーブ。しかしこぼれたボールが富山松堂の前へ。ビクトルが倒れた状態で強いシュートを放たれる。
『万事休すか?』
と、思われたがディフェンスにあたり、今度はフワッとしたボールがそのままゴールに吸い込まれそうになる。
しかし、なんとこれを素早く起き上がったビクトルがバレーボールのバックトスのように背面でかきだした!
なんとも劇的な終わり方で2連勝。普段喜びを表に出さない星が感情をあらわにしたことも手伝って、チームは最高の雰囲気で試合を締めくくった。
なお、この試合の得点すべてがセットプレーから生まれている。もうセットプレーは相模原の強力な武器だ。
順位 7 位
同点ゴールをきめて喜ぶミルトン
ビクトルの数々のビッグセーブによって勝ちを拾う!
この日Jリーグより相模原のJ2クラブライセンスが承認された。これまではJ2ライセンスを持たないため、昇格圏内に入ったとしてもJ2へ上がることはできなかった。
クラブ、チームにとってのモチベーションをあげ、さらに一歩進むために重要なライセンス。
その悲願のライセンスは『スタジアムに関する例外規定2』に基づいている。スタジアムを5年以内に完成させる目論見のもとに承認されるというものだ。
現時点で相模原はJ2クラブとして必要な設備を整えたわけではない。この例外規定によって5年の猶予を与えられている状況だ。だからスタジアム整備が進まないとライセンスの取り消しもあり得る。
それでもここに達するまでには関係者の尽力、クラブ内においては数年前から社長小西が主にこれにあたってきており、この時点でチームは7位ではあるが、大いに活力を与えるライセンス取得となった。
スタジアムに関する例外規定2について
2019年のルーキーイヤーに5得点を挙げ、今季さらなるブレイクが期待された上米良だが、攻撃陣の選手層が厚く、なかなか出番が回ってこない。
同一リーグで彼をみていた長野からのオファー。地元相模原出身ということもあり、非常に惜しまれる移籍ではあるが、なにより本人の意思を尊重したい。
そしてこの時はまさかその長野と最終戦まで昇格を争うことになるなど誰も思っていなかった。
惜しまれながらも退団、上米良柊人
この時点で勝ち点29で7位の相模原。勝ち点35で3位の長野に勝って、上位への扉をこじ開けたい。
奇しくも長野は三浦と薩川が監督を務めたことのあるチーム。直前の上米良移籍もあって、チームに負けたくないという雰囲気が強くでる。
19分、星の2試合連続ゴールが決まり先制するも、この試合の相模原のシュートは2本。終盤、長野に押し込まれる展開が続くが守りきる。
この試合あたりから『1点とれば守りきれる!』という自信がチームにで始める。
順位 6 位
2017年、クラブオフィス近くのラーメン三浦さんが始めたこの企画。割とすぐに達成されると思いきや、3連勝ができない相模原。
サポーターにも注目され、いつしか『サンマーメンの呪い』と呼ばれるように。
MLBカブスの『ヤギの呪い』は71年。そんなに大した呪いじゃなくて本当によかったです。
ちなみにサンマーメンに秋刀魚は入ってませんのであしからず。
雨中の拮抗したゲーム、お互い決定機を迎えるが決められない。
前半アディショナル、和田のシュートのこぼれ球が鹿沼の目の前にきたが、シュートはゴールキーパー正面に。
ガンバも攻めるがネットを揺らしたと思ったゴールはオフサイド。ビクトルとの1対1も、バウンドが合わなかったのか、大きく外れる。
スコアレスで迎えた74分、セットプレーから梅井が落としたボールを鹿沼がヘッドで決める。ボランチだが良いところにいる鹿沼。彼の特徴であるフリーランニングが大いに生きている。
才藤だけじゃない。ラッキーボーイは何人いてもいい。
この勝利で2位長野との勝ち点差が3となり、昇格圏をハッキリと捉えた。
順位 5 位
値千金のヘッドを決めた鹿沼
4連勝と波に乗る相模原。なんとなく相性のよくないYS横浜相手だったが、才藤がPKをもらい、ホムロが決める。さらに星から藤本、そして逆サイドの才藤へラストパスを供給する。
アディショナルには攻撃に参加していたGKの虚をつき、10節の岐阜戦のゴール以降、怪我で出場機会が減っていたユーリがドリブルしたままゴールへ飛び込む。真剣勝負の中で、どこかユーモラスなプレーが飛び出した。
最近ゴールを決めていなかった選手が決めたこともあって、チームが笑顔に包まれたこの試合。クラブ史上最高の5連勝!
昨シーズンの5連敗と真逆になった。
順位 5 位
6連勝といきたいところだったが52分に先制される。白井がゴールした選手についていたが、足を出したところを股下を抜かれる。ピッチに倒れて天を仰ぐ白井。
その後、ユーリに何度か決定機が訪れるものの、あと一歩のところで決まらない。
試合終了間際のラストプレー、ゴール前の混戦の中、鹿沼がおぜん立てしたボールを白井がダイレクトでゴール右隅へ叩き込む。
大卒新人二人による勝ちに等しい値千金のゴール。以降「かぬしら」の愛称でサガミスタに親しまれることとなる。
順位 4 位
コロナ禍で観客動員が大きく落ち込む中、厳しい経営環境でも支援してくださったパートナーの方々、クラウドファンディングによる一般の方からの調達資金で毎年恒例のドリームマッチを無事開催することができた。
今年は相模原U15選抜との試合。ホームタウンの中学3年生全員も無料招待した。
さまざまなことができなかった中学最終年であったと思うが、少しでもよい思い出になっていればと願っています。
相模原U15選抜と元日本代表選手との記念写真
お祭りムードが漂うスタジアムだが、トップチームは昇格がかかっている。ここからは真剣勝負だ。
アウェイでは力負けした感があった熊本戦。だがあの時とはチームの状況が違う。
すると得意のセットプレーから得点が生まれる。才藤のロングスローから、梅井が触って、最後はキャプテン富澤。これが今シーズン初ゴール。
実は前半でふくらはぎがピリピリいっていて、本当はもうプレーできなかった富澤。それでも試合に出続けて得点を決める。
「これが俺の最低限(やるべきことをやった)の試合です」
試合後にロッカーでそう言い残し、この後2試合、ベンチからも外れることになる。
順位 4 位
この時点で順位は4位だが、勝ち点で長野・熊本に肩を並べる。富澤の気迫で昇格圏に手をかけた形だ。
なおここまでで1-0勝利は4試合。結局、シーズン通算では6試合になるのだが、6試合ともターニングポイントとなった第17節の鳥取戦以降である。
ゴールを決めた富澤に駆け寄る仲間たち
目下の敵、岐阜との対戦。37分、GKとDFの間のスペースに速くて低いボールが入る。梅井が触ると思ったビクトルだったが、触れずにクロスがそのままゴールへ吸い込まれる。
先制を許した相模原だが、前半終了間際に鹿沼が倒されてPKを獲得。今やPK職人と化したホムロのキックはGKをあざ笑うかのようにフワッとゴール真ん中へ。
このまま1-1のドローで終わるのだが、相模原にチャンスはかなりあった。さらに直前の週の練習で、ビクトルはこの失点の形を想定した練習に取り組んでいたところだった。
自らのミスの責任を理解しているビクトル。ハーフタイムに「今週ずっとあれの練習をやってきたのに申し訳ない」とGKコーチ渡辺に謝った。
昨年まで所属した岐阜との対戦。マッチデープログラムでは対戦チームなのに紹介され、終了後の声援を聞いていても、岐阜のクラブ、サポーターから愛されていたことがよくわかる。プレーも、態度もそれに値する選手だ。
順位 3 位
古巣岐阜のサポーターへ深々とお辞儀をするビクトル
昇格を争うチームとの戦いが続いたが、藤枝は中位グループのチーム。正直、勝ち点を取りこぼしたくない。
8分に先制されるも、23分にユーリが倒されてPKをもらう。この日はホムロがベンチ外のため、ユーリがど真ん中へ強いボールを叩き込む。
しかし前半で梅鉢、和田にアクシデント。予定外の選手交代を強いられる苦しい展開となる。
52分にはセットプレーから星のクロスをゴール前で清原がヘディング。ポストに当たって跳ね返ったボールに才藤が合わせる。
このまま終わるかと思われたアディショナルに藤枝のミドルシュートがバーを叩き、こぼれ球を決められてしまった。
熊本も引き分け、昇格争いはさらに混沌としてくる。
順位 4 位
一時は勝ち越しとなるゴールを才藤が決めたが・・・
強い風が吹きすさむ、とうほう・みんなのスタジアム。芝のコンディションがよくない上に、強い風が吹いている。前半は風下となった相模原。9分、22分、31分、36分と風上の福島からシュートを放たれる。
特に22分、シュートをはじいたあとのこぼれ球を至近距離からフルスイングでシュートを撃たれるが、なんとビクトルがこれをキャッチ。再三、ビクトルの好セーブに救われ、前半をなんとか0-0で折り返す。
後半、風上にたって攻勢にでたい相模原だが、なんと風向きが逆に。またも風下にゴールをおかれる。
斯くもサッカーの神様は相模原に試練を与えるのか。
頼みのセットプレーも、才藤のロングスローは福島の長身FWイスマイラにことごとく弾き返された。
昇格を目指す中、痛い3戦連続のドローとなった。
順位 4 位
攻守ともにイスマイラ選手には苦労させられた
長野と熊本を追いかけ、追い越したい相模原だが、足踏みが続く。どうしても勝ちたいこの試合だったが、U23を苦手とする相模原の悪いところがでてしまう。
勝ちへのプレッシャーが思い切りを悪くさせるのか、セカンドボールを拾えず、前半はことごとくセレッソの若武者たちの受けに回る。
後半になって攻勢に転じるも、最後のところがこじ開けられずに試合終了。アウェイでは、アディショナルに才藤のヘディングでようやく勝ったセレッソに、ホームでも苦戦した。
順位 4 位
これで4試合連続のドロー。さらに2試合連続スコアレスのおまけつき。昇格を争うチームより、下位のほうにいるチームとの対戦に苦しむ展開が続く。
後半、藤本を投入して点を取りにいくのだが・・・
残り7試合、混戦の昇格争いを抜け出すためにどうしても勝ち点3が欲しいところだが、セットプレーから先制を許し、難しい試合になってしまう。
相模原も決定機を作るが岩手GK土井にことごとく防がれる。
後半にユーリのゴールで追いつくが、頼みの綱のセットプレーが決まらない。梅井、ミルトンと高さのある選手を封じられた格好だ。
しかし、昇格を争う他チームもことごとく足踏み。相模原だけじゃない。どのチームも残り試合が少なくなり、プレッシャーの中で勝ちきれていない。
2位長野から7位熊本まで、勝ち点3のなかに6チーム。残り6試合、昇格レースは大混戦の様相を呈してきた。
順位 4 位
この引き分けが続いた時期、勝ち点3を取りにいったのに不運な失点で引き分け。もう1回モチベーションをあげてもさらに引き分け。精神的に苦しい日々が続いた。
スタッフは気持ちの切り替えができだが、選手はどうだったろうか。さらにこの頃、ロングスローもコーナーも相手が集中してくる感じがあり、セットプレーからの得点が決まらなかった。
ただシーズンを振り返ってみれば、この時期に、腐らずに、粘りながら勝ち点1をとり続けたことが昇格につながっている。
この空のようなスッキリしない試合が続いた
相手は昇格を争う鹿児島、互いに絶対負けられない戦い。相模原はビクトルのシュートストップに助けられる。エース ホムロ、好調ユーリのシュートはバーをたたく。バイーン。
中3日で長距離移動の試合、後半疲れが見え、シュートまで持っていくパワーがなくなり、今日もまた引き分けかと思われたアディショナルタイムに一筋の光が差す。
自陣深くで相手のボールを奪い、ロングカウンターを仕掛ける。
4対4。清原、和田、星、そして鹿沼。
鹿沼は自陣のペナルティーエリアから相手陣のペナルティーエリアへのフリーランニングからのシュート!バーにあたりながらも押し込んだ気持ちのボレー!
これで今シーズン3ゴール目。鹿沼のゴールはいずれも決勝点だ。
この勝ち点3で長野、岐阜を抜き去り、ついに単独2位に!残り5試合、すべて勝てば文句なしの昇格だ!
順位 2 位
練習後にストレッチする、かぬしら
累積で夛田が今シーズン初欠場。空いた右サイドのポジションには才藤が入る。
36分、その才藤からのクロスに和田がヘッドで合わせる。その後に同点とされるも、77分に才藤が落としたボールを梅鉢がミドルシュート。再三打ってきたミドルがようやく決まる。
監督、チームメートからも冷やかされるが、彼が最終戦にこれと同じ形で決めるゴールが相模原の『未来』を切り拓くことになるとは、この時誰も知らない。
残り4試合、すべて勝てばいい。いよいよJ2昇格が現実味を帯びてくる。
順位 2 位
点を取っていない選手が決めると、チームが盛り上がり、雰囲気が良くなる。
このころチームは、勝っても「はい次いこう!」ってすぐに切り替え、負けたら悪いところは振り返るけど「はい次いこう!」って同じように切り替えて。
細かいことは気にせずに、とにかくチームの良い流れを優先していた。
彼の前には何人もの選手が立ちはだかっていたのだが・・・
昇格に向けてこの男がエンジン全開に
いよいよ残り4節。勝ち点差6の中に8チーム。
相模原、長野、岐阜、富山、鳥取、熊本、今治、鹿児島の大混戦。一つも負けられない戦いが続く。
そんな雰囲気の中、開始早々に和田がビューティフルゴールを決める。これで2試合連続ゴールだ。
その後も攻め続ける相模原。星のヘッドがバーをたたくなど、惜しいシュートが続くが決めきれない。
ホーム最終戦でふがいない試合はできない八戸。すると59分、最終ラインに入っていた八戸FW黒石がホムロと競り合いボールを奪うとそのままドリブルで攻め上がる。ハーフウェイラインを越えたあたりから右足で入れたロングボールを、MF安藤がダイレクトでゴール右隅に。
ビューティフルゴールで返されてしまった。
順位 3 位
どうしても勝ちたい試合で先制したのにドロー。負けたかのような雰囲気・・・かと思いきや、チームにそこまで沈んだ雰囲気はない。
『たまたま崩されて、たまたま空いてたところに放り込まれて、たまたま良いところに蹴りこまれただけ。やるべきことはやったし、できた。だから落ち込む必要はない』
そういう前向きな空気がチームにあった。
今節、勝った長野が2位浮上。相模原は3位へ後退。それでも16試合負けなしだ。
次節から2戦連続のホームゲーム。2つとも勝たなければならない。
試合開始早々に和田のゴールが決まったが・・・
勝たなければいけない試合でドロー、敗色が濃く漂うかと思われたが・・・
『応援にホームもアウェイも関係ない』
いや、確かに。確かに選手を応援する気持ちに違いはないのだが、アウェイはハードルが高くなる。移動距離、移動手段、時間、お金、周囲の理解。
それでもDAZNの中継映像にはおなじみのサガミスタの顔が並ぶ。
アウェイでも目にする横断幕。1枚で20kgを超えるものもある。飛行機なら追加の料金が発生するし、空港からは車じゃないと移動も厳しい。さらに幕の設置時間は限られているので、早めにスタジアムに行かなければならない。
相模原に限ったことではないし、Jリーグだけではないのだけれども、けれども情熱を注ぐみなさんに敬意を表します。
八戸のメディアから取材をうけるサガミスタ
八戸から戻って中2日。残り3節。
この時点でシーズン前半に好調だった熊本が厳しい状況に。それでも勝ち点差6の中に7チームがひしめき合っている。長野、相模原、岐阜、富山、鳥取、今治、鹿児島。まだまだ大混戦だ。
試合は、ずっと沼津にボールを持たれ、よいところがなかったが、19分「ホムロと目があった」という才藤が縦パスから裏に抜けて鮮やかな先制ゴールを決める。
後半も押し込まれる時間が続くが、選手みんなが体を張る。厳しい日程でも粘り強く1点を守り切った。
押し込んで先制を狙っていた沼津だが、逆に先制されたことで、ゲームプランが崩れた感がある。これで相模原は得意の守りからカウンターで追加点を狙いにいくプランにチェンジできた。
『自分たちがボールを持っていない方が勝てる』
データでも、実感としてもそうであった。複数点を取って華麗に勝つでもなければ、打ち合いで勝ちきるでもない。先制したら、守り抜く。先制されたら、必ず追いつく。そうやってここまで17試合連続無敗を築きあげた。
ボールを持たない。これこそが相模原の昇格への方程式だ。
順位 3 位
触らないとピンチになる局面で、触りにいける選手たち
名言誕生の瞬間、これでさらに勢いがついた
中3日で迎えた試合。これがホーム最終戦だ。
前節、長野も岐阜も勝利したため、順位に変動はない。残り2節、この時点で勝ち点差6の中にまだ5チームがいる。ただ残り試合数を考えると、長野、相模原、岐阜の三つ巴といってよかった。
しかも今節ではその長野と岐阜が直接対決。相模原が最後に昇格を争うチームが絞られる。いや、自分たちが引き分けて、長野が勝てば長野の昇格が決まる。いろんな可能性があるが、チームは目の前の試合に勝つ以外にできることはない。
相手は今季、圧倒的な結果でJ3を制した王者秋田。同じようなスタイルのチーム同士の戦い。固い守備に、セットプレーが得点源。そして図抜けたゴールキーパー、ビクトルと田中雄大。
しかも田中雄大率いる秋田の守備陣は、ここまで21勝のうち、なんとクリーンシートが14試合。しかし、17試合負けていない相模原。スタッフも、選手も自信があった。
27分、藤本がヘディングでつないだボールを才藤がループシュート。バーにあたり、ディフェンダーが間一髪クリア。なんというか田中雄大、持ってる。アウェイの秋田戦でも決定的なチャンスを彼に潰されている。嫌な感じだ。
36分、相模原のコーナー付近から秋田のスローイン。一度大きくマイナス方向に投げて、すかさずスローワーに戻す。相模原のディフェンスを釣りだし、少し崩したところへクロスからのどんぴしゃのヘディング。ビクトルが何もできない。
引き分け以下なら昇格が潰えるかもしれない試合で先制点を許してしまう。
しかし41分。星、鹿沼、才藤で秋田の固いディフェンスを完璧に崩す。完全にフリーになった才藤。田中雄大のニアをぶち抜くゴール。この重要な3連戦で2試合連続だ。
昇格のかかる相模原は、引き分けでは昇格への道筋が見えなくなる。何度も、何度も、秋田ゴールに迫るが、ゴールが、1点が遠い。
必死にボールを追いかけ、守り、攻める。それでも、どうしても点が取れない。
そしてついに誰もが聞きたくないホイッスルがスタジアムに鳴り響く。
間違いなくやった。できることをやりきったが・・・
長野が勝てば昇格決定。岐阜が勝っても2チームが相模原の上にいく。事実上の終戦だった。
順位 3 位
富澤、気迫のディフェンス!
できること、やるべきことはやったんだ!
どうしても敗色感が拭えない選手たち
開始時間が1時間遅い長野と岐阜の試合が続いている最中にセレモニーが始まる。選手も暗い表情だったが、子どもと一緒にスタジアムを一周すると徐々に笑顔へと変わっていく。
監督、キャプテンがスタジアムに詰めかけてくれたサポーターへ挨拶。
「俺はあきらめが悪いんで」と三浦。
「俺も諦めが悪いんで」と続ける富澤。
何かある、何かあると信じてセレモニーを終えた。
この後、キャプテン富澤が試合運営のボランティアさんたちを労う。用意されたのは選手全員の手書きサインが入ったTシャツ。40名を超えるボランティアのみなさんへ手渡した。
するとロッカーからでてきた三浦から吉報がもたらされる。
『引き分け』
相模原にとってそれしかない結果だった。
何かある。まだ何かある。一度死の淵へ追いやられたチームが息を吹き返した。
諦めの悪い男
「まだ何かあると信じて」と語る三浦
明後日の15時にはすべてが決まっている。泣いても、笑っても関係ない。私たちはここまで彼らに勝利する喜びを、勝てない悔しさを、一喜一憂する楽しさをもらった。
あとは信じて応援するだけだ。
シーズン報告会のないこの年、これが全員がそろう最後となった
ホーム最終戦から1週間。すべてが決まる場所、今治。
チームだけでなく、フロントも全員今治へ入る。こんなことはクラブ創設以来初めてのことだ。
アウェイ席もすべて完売。勝利しても昇格は相手次第だが、それでも多くのサガミスタが信じて遠路はるばる駆けつけた。
ゴール裏アウェイ席は完売、メインスタンドにもサガミスタが駆けつけた
争うは3チーム。J2への昇格枠は残り1つ。
岐阜にも可能性はあるが、得失点差が離れている。事実上、相模原と長野の一騎打ちだ。
相模原の昇格条件は、勝利して勝ち点3を取り、長野の負けか引き分け。自力で駆け上がることはできない。
J2への階段を上がれるのは残り1チームのみ
この特別な試合、1年間、共に戦ってきたみんなで挑む
この音の響き、生涯忘れる事はない
以前、福岡のコーチをしていた時に同じような状況を経験した三浦は、試合への集中が削がれないよう、選手、スタッフ、フロントすべてに長野戦の情報を遮断するように求めていた。
自分たちの未来が決まる、とても気になること。
けど、ここもみんなで戦おう。
薩川は選手にこう言ってきた。
「ベンチに甘んじてはダメだよ。でもベンチに入ったら、自分のことも全力でやるし、チームの応援も全力でやるんだ」
最終的に21名が新たに加入した今シーズン。チームとして1つになれるよう、自分たちのを力を100%だせるよう、それぞれの立場で努力を重ねてきた。
ベンチでも、ベンチ外でも、誰も文句ひとつ言わずにチームの雰囲気づくりに努めてきた。そのベンチ外のメンバーが往復18時間の道のりを車で駆けつける。
あと90分でこのチームは終わる。文字通りにみんなで戦おう。
泣いても笑ってもこれがラスト90分
車で駆けつけたチームメイトをみつけて笑顔の選手たち
素晴らしいとしか言いようがない。
センターライン手前から振りぬかれたジュンゴの左足。そのボールは遥か遠くのホムロの右足にピタリとあう。
最も決めた男の、最も美しいボレー。遅れてやってきた男たちが魅せた、サガミスタ待望の一発。
なぜなら、先制した俺たちに負けはない。
今シーズンのどのゴールより大きな喜びをみせるホムロ
直後の17分。今度は今治がセンターサークルより少し入ったあたりでFKを得る。
右サイドから左足で巻いて密集に入れてきたボール。なんとかかき出そうと、ホムロ、夛田と触るが、ボールは今治のDF中野の目の前に。逆に飛んで倒れているビクトル。
万事休す・・・誰もがそう思ったに違いない。
しかし、至近距離から放たれたヘディングにビクトルが反応。かろうじて左手が間に合い、ボールはゴールライン際の誰もいない方へ転がる。
もはや運でしかない。いやその運が大事なんだ。
今シーズン、勝利の立役者となってきた守護神ビクトルが大一番でも魅せる。
今年の相模原の特徴はやはり守備のところ。三浦が薩川に任せた守備。守りきれる守備がチームのベースにある。
セカンドボールには、奪われてもリスクが少ない時もあれば、奪われるとピンチになる時もある。
『必ず勝たなければならない球際』
そこで勝つことで粘り強さを得たチーム。最後にそこをもう一度確認した。
絶対に勝たなければいけない試合、だからこそ冷静に、そして激しく!
この試合、遠くアウェイの地であり、かつチケットが品薄であったことも重なり、やむを得ずDAZN中継で試合を見守ったサポーターも多かったと思う。そんなサガミスタのハートにグッときたのが江刺アナの実況だ。
我々のことを『サガミスタ』と呼び、つい先日、生まれたばかりの『諦めの悪い男』を連発。ハーフタイムには望月にクラブ創設の経緯を確認。愛媛出身でFC今治の書籍を執筆している同氏だが、対戦相手の我々と、サッカーへのリスペクトに溢れる実況であった。
なお、相模原のデザイナー、東郷氏は『ソックスの2本線がJ2昇格への思いを表している』ことに触れてくれたと感激していた。
ただ1つ残念なことがあるとすれば、同氏のフレーズ『サガミナチオ』がサガミスタに定着しなさそうなことだけだ。
出典:南海放送アナウンサー https://www.rnb.co.jp/anno/node/000050.php
ありえない実況をありがとう!ロッペン江刺アナ!
後半開始直後、左サイドを駆け上がった星がシュートを放つ。こぼれたボールが才藤の前へ。
強引に打てなくもないが、2~3枚のディフェンスが才藤の前に立ちはだかっている。すると才藤、とっさに右足でヒール。落としたところに梅鉢が走りこんでくる。
・・・いつか見たシーンに似ている
そう、30節のガイナーレ戦。あの試合でも才藤が落としたボールを梅鉢が決めた。あの時も梅鉢の前には何枚ものディフェンスが立ちはだかっていた。
不思議な選手。そういわざるを得ない。入りそうもないほど難しいシーンの方が入ってしまう。
梅鉢がわずかな隙間へボールを蹴りこむ・・・
ディフェンス3枚とGKが飛びついてくるが、いずれも間に合わない。信じられないほど狭いスペースを縫うようにしてシュートが突き進んでゆく。
試合後、選手たちがロッカーで「バチのゴール、あれ、メチャメチャ狭いところ決まってたよね?」って言いあっていた。
映像で確認してみると、両足を投げ出したディフェンスのその足の間を抜け、体ごと飛びこんできたディフェンスの足元を抜け、頭で防ぎにきたその横を間一髪すり抜け、最後はGKの手も届かない。
もしこの場面をそっくり再現できたとして、何回シュートを打てば決まるのだろう?
サッカーの神様が「昇格への階段を上りなさい」と道を拓いて下さったかのようなシュート。
まさに奇跡のシュートだった。
このシュートをこの角度から収めた映像があることも奇跡のように思える
コーナーキックから長身DFチョン・ハンチョルのヘディングを食らう。防ぎようのないドンピシャヘッド。
今シーズン、余裕で見ていられた試合などなかった。そう、これが相模原だ。
本当に、本当に、粘り強く、泥臭く。
先制されても、追いつき。
追いつかれても、負けない。
勝ち点3が手に入らずとも、焦らず、腐らずに、1点、1点を積みかさねた苦しかった日々。
そのすべてが、この後、ここ今治で実を結ぶことになる。
アディショナルタイムは6分。相模原を応援する誰にとっても長すぎる6分。
『93分のヘディングが枠に飛んでいたら』『96分のパスに触れられていたら』
それだけで相模原にかかわるすべての人の運命は大きく変わっていた。
勝利と敗北。歓喜と悲劇。大きく違うその2つを分かつのはちょっとしたことなんだ。そのちょっとしたことを、この1年、積み重ね、積み重ねて得た勝利。
選手やスタッフだけではない。フロント、スポンサー、ボランティア、サポーター。そうした誰かの、何かが欠けていたとしたら、同じ結果はあったのだろうか?
そう、この瞬間、我々はやったのだ!やってのけたのだ!!
これがラストプレー、我々が栄光をつかんだ瞬間だ!
試合終了直後、三浦はすかさずスタッフに「長野どうなった?」と確認する。GKコーチ渡辺が「長野負け、長野負け!」と繰り返すとその場にいた全員の感情が爆発する。
選手、スタッフ、関係者がピッチに入り、俄かには信じられない昇格を喜び合う。これまでの努力、多くの人の努力が報われた瞬間。喜び以上の何かにみなが包まれる。
『歓 喜』
よろこぶという漢字を2つ続ける。嬉しいでは表現しきれない。笑顔でもない。そう、我々はこの瞬間、まぎれもなく歓喜に包まれた。
生涯で1度でも歓喜に包まれる幸福な人はどれだけいるのだろう。サッカーには、スポーツにはそれがあるんだ!
順位 2 位 J2昇格決定!
固く抱き合う三浦と望月
--今の気持ちを聞かせてください。
J2昇格が決まってから少し時間が経ったことによって、これから険しい道に進んでいかなくてはならないんだなという、ちょっと複雑な気持ちです。
--長野の結果を知ったのは試合後だったということですが。
そうです。僕自身はキャプテンとして、この試合で絶対にチームを勝たせるという強い思いがありました。長野の結果は考えず、とにかくこの試合に勝つんだと。
--来シーズンに向けてどのように戦っていきたいですか。
先ほどのフラッシュインタビューでも話したのですが、僕らが忘れてはいけないのは、勝ち負けがある世界で勝ったものと負けたものが生まれます。J3で共に戦ってきた、特に長野さんや岐阜さんとは最後まで争いましたが、彼らの思いを絶対に忘れちゃいけないと思います。一緒に戦った彼らの思いを背負い、J2という新たなステージに挑戦していきたいです。
チームを率いるキャプテンとして相応しい立ち振る舞いの富澤清太郎
この日の同じ時間、長野Uスタジアムは悲しみに包まれていました。歓喜とは正反対の感情。映像には、涙が止まらず、母の胸に顔を埋めるお子さんの姿もありました。
この悲しみをもたらしたのは、紛れもなく、私たち相模原です。私たちが積み上げ続けてきたものが、悲しみに暮れる人々を生み出しました。
これまでのクラブの歴史を振り返ると、AC長野パルセイロとは不思議なものを感じずにはいられません。
2015シーズンの開幕戦、長野Uスタのこけら落としでもあったこの試合、対戦相手であった我々は逆転で勝利を手にしました。
今度は2017シーズンの開幕戦、ギオンスタジアムに表れたのは、我々を遥かに凌ぐ数のオレンジのサポーター。試合に敗れただけでなく、そのチャントよろしく、長野の力を見せつけられた思いでした。
規模、順位、環境。どれもリスペクトしてきた相手と最後まで昇格争いを演じ、我々が先に進むなど、俄かには信じがたいものがあります。
試合後のセレモニー、阿部主将が 「みなさん、もう一回立ち上がりましょう」と呼びかけていました。
負けから得られるものが多いことは事実です。勝つよりも、負けた方がより得られるものがあるとしたら、団結とか、結束とか、そういうものだと思います。喜びを共にするより、悲しみを共にした方がよりお互いを近くに感じます。
しかし、私たちは勝利を手にし、勝利することでしか成し得ない『前進』をします。
この先、長野にも、相模原にも、その他の多くのクラブにも、どんな未来が待っているのか。それは誰にも分かりません。
けれども、いつか必ず交差するその時まで、今年、このリーグで生まれた多くの戦い、努力、悲しみを自分たちのものとして歩んでゆくことが、私たちの使命です。
富澤清太郎が語っているのはそういうことだと思います。
最終戦、敗れてJ3に残留することで、プロとして活動を続けられた選手がいたかもしれません。奇妙なことにサッカーには、努力して、勝利して、前に進むことで消えなければならない時があります。
どれだけの選手がその運命を抱え、理解してこの試合に臨んでいたのか。それはわかりません。でも誰もが自身のことより、チームの勝利に、目の前のボールに全力を尽くしました。
わかっていてもそうする以外にない運命。そうした運命の集合体が放つ、強くて儚い一瞬の輝き。この昇格劇はそのようなものでした。
昇格を決めた2020シーズンのチーム。SC相模原にとって忘れることのないこのチームも、これから紡ぐクラブの長い歴史からみた時には『思い出深いチームのひとつ』にならなければいけません。
ただこの昇格劇には、試合に勝ったという事実の裏側には、個々が重ねてきた成功と失敗の体験、自分以外の何かを優先する姿勢、ピッチに立っていない人々の想いや行動、他のチームが重ねた努力と悲しみ。そうしたものをない交ぜにして作り出された物語であったということを覚えていて欲しいと思います。
数々の縁によって導かれ、皆がその導きに従うことで生み出されたこの奇跡の物語が、いつになっても色あせることがないよう、ここに記します。
記 2021年1月吉日